2016年12月5日月曜日

【公述起こし】11/25参議院TPP特別委員会 中央公聴会 TPP批准する理由なし!4人中3人が反対意見


 2016年11月25日、参議院TPP特別委員会で行われた中央公聴会の内容を文字に起こしました。与党推薦1名、野党推薦2名、公募1名の公述人による陳述は、4人中3人が反対。TPPへの賛否、そして私たちはどこへ向かうべきなのかを考えるうえで、参考となる内容です。ご一読ください。

▼参議院インターネット中継
http://www.webtv.sangiin.go.jp/webtv/index.php 

■公述概要


1.根本勝則(日本経済団体連合会常務理事/自民党・公明党推薦)


・「豊かで活力ある日本の再生」の大きな鍵を握っているのはイノベーションとグローバリゼーション。
・我が国の産業の空洞化を防ぎ、投資先としての魅力を高め、成長軌道に乗せるためにはTPPが不可欠。
・TPP協定が実現すれば、相手国が貿易総額に占める割合は約40%となり、約20%のEU、38%の中国を超え、米国の47%に近づくことになる。
・世界のGDPの約40%の巨大な市場の活力を取り込むことで、我が国のGDPは約2.5%~2.7%押し上げられる。
・域内製品は累積原産地規則の下で、メード・イン・TPPとして認定することによって、関税の引下げ、撤廃のメリットを享受できるようになる。
・成長著しいアジア太平洋地域に高度なバリューチェーンを構築することを容易にする制度インフラを獲得できる。
・貿易や投資に関する広範かつ高度な水準のグローバルなルール作りをリードする21世紀型の画期的な協定である。
・TPP協定は、自由、民主主義、法の支配、市場経済といった共通の価値観、原則に基づく経済秩序づくりの一環。

2.内田聖子(アジア太平洋資料センター代表理事/民進党推薦)


・TPPが直面している状況は、過去30年の自由貿易推進の歴史の失敗を如実に表している。
・日本が急いでTPPをこの国会で批准するという合理的な理由はすでにない。
・国民に行き渡るようなメリットがどこにあるのか明らかになっていない。
・衆議院のTPP特別委員会で強行採決とは到底受け入れられない非民主的な決定。
・TPPの発効がほぼ絶望視されている中で、各国が立ち止まって静観している。即座にこの審議を止めるべき。
・TPP発効という名の下で、すでに「TPP対策大綱」で1兆1,906億円の予算が組まれ、相当程度執行されている状況は極めて異常。
・これ以上の規制緩和や一人一人の生業や人生の選択にまで関わる事態を放置することはできない。
・日米並行協議は非常に危機的。アメリカからの要求に相当程度応じた一方的で片務的な交渉である。
・TPPが発効しなかったときに、日米並行協議の内容について、どう責任を取るのか、どうやって原状復帰を行うのか。何もなかった状態に戻されなければ困る。
・大企業や投資家だけが利益を得る仕組みではなく、どうやって公平な分配、地域の再生ができるか、こういう貿易のあり方をきちんと議論をしていくことに日本も貢献を。

3.萩原伸次郎(横浜国立大学名誉教授/共産党推薦)


・トランプ氏がTPPから離脱すると発表し、オバマ大統領もTPP批准を諦めたなかで、TPP協定は発効できない。歴史的なごみ箱に入れられたといえる。
・この国会でのTPP審議の意義というのは、基本的に崩壊している。
・国益という言葉は立場の違いによって異なる。大局的立場から判断することが求められる。
・自由貿易が生産性を高め、イノベーションを引き起こし、輸出増大による高賃金職の創出につながるとの貿易効果は、すでに過去のもの。
・自由貿易による輸出促進が雇用を増大させるとよくいわれるが、必ずしもそうなる保証はどこにもない。
・多国籍企業本位の効率的なバリューチェーンを形成されるということが大変大きな問題。
・締約国から安い農産品や食品が日本に大量に入ってくるということになれば、日本の賃金は確実に低下の傾向をたどる。
・さらなる賃金低下、内需の落ち込み、デフレの進行、魔のスパイラルという事態がTPPによって引き起こされる可能性を否定することはできない。
・賃金を上げる、日本経済を活性化したいということを考えるのであれば、TPPから離脱することこそが、日本の賃金、経済、そして地域の底上げになる。
・TPPは多国籍企業や海外進出を図ろうとする一部の中小企業の利益になるだろうが、多くの労働者、農業者、中小企業の方々、消費者、地域住民との矛盾がある。

4.住江憲勇(医師・全国保険医団体連合会会長/公募)


・衆議院での強行採決、十分な開示と徹底的な審議がなされないまま、今国会で承認、批准されることは断じて許されない。
・貿易交渉のあり方とは、相手国と相互に事情、実情を真摯にしん酌し合い、対等、平等、互恵関係を構築することにある。
・強者の論理、資本の論理むき出しのTPPは、前世紀までの列強による世界支配によってテロのような報復の連鎖を生んでいるという反省に対する冒涜である。
・TPP協定は我が国の公的医療保険制度を切り崩し、国民の生活と権利を損なうものである。
・新薬の高止まりが続き、医療保険財政を圧迫する。
・透明性や手続の公正の名の下に、医薬品の保険適用や公定価格決定プロセスに多国籍企業が利害関係者として影響力を及ぼすこと、すなわち日本の薬事行政への介入が懸念される。
・特許期間の延長やバイオ医薬品のデータ保護期間の設定、特許リンケージなど多国籍企業に有利なルールで、ジェネリック医薬品の開発を限りなく遅延させることになる。
・「オプジーボ」に「市場拡大再算定ルール」が適用され、50%引下げが決定されたが、TPPの下であれば、直ちにISDS条項の発動という事態になったかもしれない。
・ISDS条項は前時代的な条項であり、強者の論理、資本の論理そのもの。ISDSを克服すること自体、人類の英知が問われている。
・営利企業の医療への参入を招くことになり、命と健康は金儲けの対象にしない医療の非営利原則が崩される。
・助け合いの共済制度に民間保険会社と同等の規制がかけられる恐れがある。
・所得再分配、社会保障制度としての公的医療保険制度の下、医療をあまねく国民一人一人が享受できるようにすることこそ、医の倫理。

■公述起こし全文


1.根本勝則(日本経済団体連合会常務理事/自民党・公明党推薦)



 TPPをめぐっては各国に様々な動きがありますが、こうした時期だからこそ、日本がリーダーシップをとるべきであるという立場から意見を述べます。

 経団連では、昨年の1月、2030年までに日本が目指すべき国家像を描いた将来ビジョン 「豊かで活力ある日本の再生」を公表したところです。天然資源に乏しく、少子・高齢化による労働人口の減少に直面する我が国ですが、この再生の大きな鍵を握っているのはイノベーションとグローバリゼーションであるというのが、私たちのビジョンが打ち出しているメッセージです。

 いかにしてグローバル化を進め、海外の活力と成長力を取り込むのか。ビジョンでは、2020年までにEPAの相手国が我が国の貿易総額に占める割合を80%程度にまで引き上げ、2030年までにそうしたEPAの成果を取り込んだ高水準の多角的自由貿易投資体制を確立するという目標を掲げたところです。

 そうした目標を達成するために直ちに取り組むべき課題の一つとして掲げまたのが、TPP協定の早期実現でした。経団連は、TPPを始めとする経済連携協定の推進を、WTOを中心とする多角的な自由貿易体制の維持強化と並ぶ貿易・投資自由化のための車の両輪と考えて取り組んできました。現実には、WTOドーハ・ラウンドがなかなか答えを出せない中にあり、各国ともEPAのネットワークの拡大に力を入れており、我が国が国際競争でこれ以上不利な立場に置かれないためにはEPAの一層の推進が急務と考えています。

 しかし、これまでに我が国が締結したEPAの相手国が貿易総額に占める割合は約23%に留まっています。自動車、エレクトロニクスといった基幹産業において、我が国の企業と激しい競争を行っている韓国の貿易総額に占めるEPA相手国の割合は67%であり、大きな差があります。TPP協定が実現すれば、これが約40%となり、約20%のEU、38%の中国を超え、米国の47%に近づくことになります。

 我が国の産業の空洞化を防ぎ、投資先としての魅力を高め、本格的かつ持続的な成長軌道に乗せるために不可欠だということがお分かりいただけるのではないかと考えています。TPP協定の速やかな承認、発効への努力を引き続きお願いする所以です。

 経団連では、政府部内でTPP交渉への参加の検討が始まった2010年から、一貫して協定の早期実現を強く働きかけてまいりました。2010年3月に米国、豪州を含む8か国が交渉を開始するに及び、その直後の6月には交渉参加を経団連として提言もさせていただきました。結局、我が国の交渉参加は2013年7月まで待たなければなりませんでしたが、この間、様々な誤解や根拠のない懸念が広まりました。しかしながら、交渉参加後は広く情報提供を行う機会を設けるなど、政府、民間双方において努力した結果、そうした誤解や懸念はかなり払拭できたのではないかと考えているところです。

 我が国の交渉参加から昨年10月の大筋合意までの2年余り、経団連では協定に盛り込むべき具体的な要望を政府に提出させていただく一方、内外の経済団体と連携して共同提言を取りまとめ、各国政府に働きかける等の活動を行ってきました。

 また、交渉会合が開催される現地に代表団を派遣して、交渉の推進を働きかけてきました。その一環として、交渉が大詰めを迎えた昨年の夏から秋にかけての閣僚会合の際には、 経団連副会長を始め幹部が現地入りし、各国の経済界とも連携しながら、歴史的な合意を後押ししてきたと考えています。

 経済界は本当にTPP協定の実現を望んでいるのか、あまりそういう声を聞かないという批判があるとすれば、専ら私どものPR不足が原因でして、この機会に改めて経済界から見た協定の意義について、続いて説明させていただきたいと思います。

 協定の意義は、大きく分けて経済的な意義と戦略的な意義の2つがあると考えています。まず、経済的な意義について3点指摘させていただきます。

 第1に、世界のGDPの約40%、8億人の自由で公正かつ巨大な市場が誕生するということです。この市場の活力を取り込むことで、政府、世界銀行、民間の研究所、それぞれの試算によれば、我が国のGDPは約2.5%から2.7%押し上げられるという試算があります。

 第2に、成長著しいアジア太平洋地域に高度なバリューチェーンを構築することを容易にする制度インフラを獲得できるということです。例えば、基幹部品を我が国で生産し、それを東南アジアにおいて東アジアで生産された部品と合わせて組立てを行い、完成品を米国で販売するといった水平分業がビジネスの現場では進んでいます。TPP協定では、こうした複数の国にまたがって作られる製品については、累積原産地規則の下で、いわばメード・イン・TPPとして認定することによって、関税の引下げ、撤廃のメリットを享受できるようになります。

 その結果、高付加価値の基幹部品について、日本国内の工場での生産を維持することができますし、日本にとどまりながらグローバル化のメリットを享受することも可能になりますので、日本国内への投資を促し、雇用を生み出すことにもつながると考えています。実際に会員企業からは、TPP協定は新技術、新製品の開発を担う国内マザー工場の維持強化、先端技術の海外流出の防止、国内雇用の維持につながるとの期待を耳にしているところです。

 第3に、TPPは貿易や投資に関する広範かつ高度な水準のグローバルなルール作りをリードする21世紀型の画期的な協定であるというところです。例えば、電子商取引に関するチャプターでは、国境を越える情報の移転の確保、サーバーなどコンピューター関連設備の自国設置を求めることの禁止などが盛り込まれています。これによって、映画やゲームなどのコンテンツをインターネットで提供するサービスなどを行いやすくなるものと考えています。こうした時代に即したルールがTPP協定に盛り込まれたことによって、他のEPA交渉やサービス貿易に関する協定交渉にも既に波及効果をもたらしていると感じており、TPP協定が実現すれば、グローバルなルール作りが更に加速するということが期待できると考えます。

 また、新興国の一部ではコンピューター関連設備の自国への設置を要求する国内法を制定する動きが見られますが、これに対して、最近も 日米欧、豪州、カナダなど、40以上の経済団体が結束して反対の声を上げています。そうした結束を容易にしている背景にも、TPP協定における合意があるものと感じているところです。

 以上、申し上げたような経済的な意義を有するTPP協定を積極的に活用し、我が国の経済を成長軌道に乗せることこそ、成長戦略の要であると考えます。そのため経団連では、大企業のみならず、中小企業、農業生産法人、労働組合といった多様な関係者のご参加を得て、TPP協定の活用を促すシンポジウムを開催するなどの取り組みを行ってきました。また、TPP協定によってアジア太平洋地域に自由で開かれた予見可能性の高い経済圏を実現することは、昨今の反グローバル化や保護主義の伝播を断ち切るためにも必要であると考えています。

 次に、TPP協定の戦略的な意義について述べます。

 経団連としては、TPP協定を、自由、民主主義、法の支配、市場経済といった共通の価値観、原則に基づく経済秩序づくりの一環であると捉えています。また、アジア太平洋地域の安全保障において重要な役割を果たしている米国、日本、豪州を含む経済連携のネットワークがつくられることは、この地域の安定と繁栄にも大きく貢献するものと考えています。

 ベトナムのグエン・クオック・クオン大使は、 経団連の機関誌への寄稿の中で、「TPPへの参加により、太平洋の両側の国々との連携が深まり、この地域の重要なパートナーとベトナムとの長期的なパートナーシップが構築され、利益を共有できるようになる」と戦略的な意義を語っておられます。
 最後に、中小企業と農業にも一言触れさせていただきたいと思います。

 先ほど申し上げたTPP協定の経済的な意義は、大企業ばかりでなく、中小企業にも当てはまるものと考えています。実際、経団連のシンポジウムに参加され、既にベトナムで事業を行っている中小企業の方からは、「TPP協定は中小企業にとってフォローの風である」という発言をいただきました。先ほど申し上げた経済的な意義のほか、税関手続等の貿易円滑化のための規定は、中小企業の輸出拡大に貢献するものと考えています。

 農業については、粘り強い交渉の結果、日本からの農産品の輸出には関税がかからなくなる一方、我が国は2割弱の農産品について関税を維持することとなり、我が国の事情を踏まえた結果になったのではないかと考えています。今から力を注ぐべきは輸出と海外展開の強化であると考えます。この点、経団連としては、去る9月に提言を取りまとめ、公表しましたが、今後は、農業界と経済界との連携において、輸出、海外展開にもつながるプロジェクトの創設、創生、形成にも取り組んでいきたいと考えているところです。

 今週初め、トランプ次期大統領は、米国民向けのビデオメッセージで、大統領就任初日のTPP協定からの離脱に言及されたと聞いています。残念と言わざるを得ませんが、この点については、あまり予断を持たず、まずは我が国を含めた参加各国が国内手続を進めていくことが将来への道筋を開く上で重要だと考えます。経済界としても、TPPの経済的な意義のみならず、アジア太平洋地域の平和と安定に重要な役割を果たすという戦略的な意義を、機会あるごとに訴えていきたいと思います。

2.内田聖子(アジア太平洋資料センター代表理事/民進党推薦)



 私たちの組織は日本に基盤を置く国際NGOですが、80年代以降の新自由主義の促進や自由貿易、投資の自由化の推進がもたらした負の側面について、途上国、先進国の市民社会とともに調査研究や発信、政策提言を続けてきました。TPP以前のWTOや多国間投資協定、現在ではRCEP(東アジア地域包括的経済連携)やTiSA(新サービス貿易協定)などのメガFTAにも着目しています。

 いまTPPが直面している状況は、まさに過去30年の自由貿易推進の歴史の失敗を如実に表していると指摘したいと思います。その意味で、私たちはいままさに、今後の国際貿易のあり方の大転換を迫られているという歴史的な岐路に立っているという大きな認識がまず必要かと思います。

 TPPだけでなく、アメリカとEUの自由貿易協定、TTIP(環大西洋貿易投資パートナーシップ協定)やRCEP、TiSAも、非常に交渉は難航し、進んでいません。日本とEUの経済連携協定も同じです。

 これは、例えば先日のイギリスのEU離脱やアメリカの選挙の結果でトランプ氏が選ばれるというところにも、人々の政治的な意思として、自由貿易のやり方やルール、 フォーマットそのものがもう立ち行かないということを示している一つの証左だろうと思っています。

 今日はTPPの中身の問題点を十分に指摘したいと思っていますが、やはりその前に重要な点を申し上げたいと思います。それは、なぜ今この国会の中で、TPP協定、関連法案が粛々と議論され続けているのかという点です。衆議院の段階からもそうでしたが、日本が急いでTPPをこの国会で批准するという合理的な理由はすでにありません。

 外的な要因としては、アメリカの大統領選の結果や、オバマ大統領の残存期間であるレームダックでの承認もほぼ可能性はゼロです。それに伴い、いくつかの国では、この大統領選の結果を踏まえて、当面は状況を静観するという態度を取り始めた国もあります。

 今日は、マレーシアのムスタパ外相が出した声明も資料として付けていますが、ここにあるのは、「マレーシアは米国の次期政権の下でのTPPの行方を見極めていく。米国がTPPを批准しないと決定した場合、ほかの加盟国とともに次の方針について議論する」、つまり静観する、急がないという方針です。

 こういう外的な要因というのはいくつかあります。ただ、アメリカや他の国がどうとかいうことで国会が左右されていいのか、という論もあると思います。それはその通りだと思います。

 では、日本の国会でどうなのかということについては、4月の国会、そして9月からの国会も含めて、この衆参の審議を通じて見えてきた様々な問題があると思います。

 一つは、TPPは大変膨大な領域をカバーする協定です。協定文だけでも8,000ページ以上、分野も21分野にも至ります。この国会では、やはり農業の関税問題が中心になっており、十分に全ての分野が熟議されたとは到底思えません。

 それから、メリットがあるということについても、いま一つ具体的ではなく、国民に行き渡るようなメリットがどこにあるのかという点が、まだ十分に明らかになっていません。

 そして問題点の方は、野党の議員の方が次々と質問されていますが、秘密交渉であり交渉のプロセスは開示されないという壁にぶつかって、十分にその経過が分からないので議論が深まりません。

 4点目は、この審議を通じて、TPPを批准するかどうかという以前に、例えば今の日本の食の安心・安全に関する規制の状況などがすでに非常に問題があるということが次々と指摘されています。というように、このような議論の進行状況では、良いも悪いも、とても国民的な理解を得られていないと思います。

 5点目としては、先の衆議院のTPP特別委員会で強行採決というものが行われました。これは国民から見ても、到底受け入れられない非民主的な決定だったと思っています。

 こうした状況を受けて、世論は日に日にTPPについて疑念と不安を高めています。審議をすればするほど不安が高まる、わからないという方が多くなっています。そして、慎重審議を求める声も各種世論調査で増えています。

 最後に、つい先日、トランプ氏の100計画の発言がありました。これを受けて、安倍首相自身が成長戦略を練り直さなければならない事態に至ったという 報道もあるほどです。これは確かにそうだろうと思います。アメリカがどうあれ、この決定に日本も影響を受けざるを得ませんから、成長戦略全体を練り直さざるを得ないというところまで来ているわけです。

 つまり、これまでは、TPPで成長するとか、海外の成長を取り込むとか、グローバルマーケットなど、色々なことが言われてきましたが、TPPは成長戦略の柱として位置付けられていました。その柱が発効するかどうか、ほぼ絶望視されている中で、何もなかったかのように批准を進めていいのかということは、私だけではなく多くの国民が思っていることだと思います。ひょっとすると、政府・与党の議員の皆さんの中にもどこかで、なぜ今これをやるのかと思っている方がいるのではないでしょうか。

 ですから、私は批准というプロセスを一旦停止するしかないと思っています。これは承認のプロセスを全て破棄せよということではなく、マレーシアが取った態度のように、一度立ち止まって静観する、相手の出方を見ると。アメリカの市民でさえ、今、新大統領に対して“See and wait”と言っています。黙って見つめて、次の体制を取ろうということです。アメリカの国民ですらそう言っている状況の中で、どうして日本が国会で審議を進めるのかという問題です。

 ですから、私はまず、即座にこの審議を止めるということをやはり提案したいというのが、今日一番の強い思いです。

 なぜ、そういうことを言うかというと、TPPの発効がほぼ絶望視されていくなかで、じつはすでに日本の中では、様々な形で予算が執行されていたり、TPP発効を見据えた、TPPを前提とした様々な対策、それから中小企業に対する投資をどんどん海外でやろうというような推進が各地で行われて、実際にそれを実行している企業などもあるわけです。あるいは、農家のなかには、TPPが発効してしまえばもう農業続けられないと、「TPPに背中を押されて農業やめました」という方も多数います。影響はもうすでに実際に起きているということを鑑みれば、TPPが発効するからという名の下で、これ以上の規制緩和や一人一人の方の生業や人生の選択にまで関わる事態を放置することはできないと思っています。

 予算に関しては、東京新聞が一昨日報道しましたが、すでに「TPP対策大綱」の下で1兆1,906億円の予算が組まれています。このうち2015年のものはすでに執行されていますし、2016年のものも、相当程度執行されていると聞いています。

 他国はどうなのかといえば、ニュージーランドやオーストラリア、アメリカは当然そうですが、発効もしていなければ批准もしていない状態のなかで、TPP対策の予算を組んで執行しているような国などありません。当然だと思います。その意味で、この間、日本は極めて異様な、異常な状況をつくってきたと言わざるを得ないと思います。

 そして、TPP発効が絶望視されるなかで、私はやはり日米並行協議の問題は非常に重要な危機として感じています。日米並行協議とは、日本が交渉に正式参加する前の2013年4月にアメリカとの間で始めた交渉です。これは日本が参加するための前払あるいは入場料としてアメリカからの要求に相当程度応じた、一方的で片務的な交渉だということは、TPPを推進している有識者の方でさえ指摘しています。

 対象となる分野は非常に多岐にわたります。自動車から食の安心・安全、急送便、知財、投資など、非常に多岐です。ところが、この全容はいま一つ明らかになっていません。政府の公表している文書は手に入れていますが、基本的には全部が開示されていないのだろうと思います。

 問題は、これがすでに日本国内において、いくつかの分野では実現されてしまっているということです。例えば保険分野では、アフラックという米国の外資系企業がかんぽ生命の新規参入を認めないということを決定して、そして日本の郵便局のネットワークを使って販売できるというようなことも実際に行われています。食の安心・安全に関しても、ここに挙げているのは米国の要求ですが、すでに規制緩和が進んでいます。

 全容が分からないなか、私たちもいろいろと調べているのですが、一つ、大変気になる記述が、この『ドキュメントTPP交渉』という、朝日新聞の鯨岡仁さんという記者の方が最近出された日米の交渉とTPPに関する本の中で、日米並行協議についてこのように書かれています。
2013年に始まった並行協議で、アメリカではカトラーさんというUSTR代表代行が来て、日本では外務省の経済外交担当の森さんという方が交渉していたのですが、その下りをちょっと読みます。

 「カトラーは、日本側の外務省経済外交担当大使、森健良に“要求リスト”を差し出した。その内容は、米韓FTAに盛り込まれたものに似た、法外なものであった。 日本側は、TPP交渉に入る前の事前協議で、米国の自動車の関税撤廃を TPP交渉で最も遅いものとそろえるという条件を呑まされた」など、色々と続きますが、一番重要なのはこの一文です。 「しかも、カトラーは丁寧に、日本の法改正リストまでつくり、森に手渡した」と書いてあります。

 こうした事実を、少なくとも国民は聞いていません。国会議員の方々も、こうした法律の改正リストを作られて突き付けられたということをご存知なのかどうか、私はわかりませんが、こういうところにまで、TPPと並行する協議のなかでかなり攻められてきているという事実があります。

 この日米並行協議というのは、そもそもTPPと並行して始まったものであり、政府の見解としては、日米並行協議はTPPが成立しなければ無効となる、意味を成さない、これが従来の説明でした。つまり、すでにTPPが発効してもいない、批准してもいないなかで、実際上、私たちの社会というのは変えられてきているわけです。あるいは、水面下で色々なことが攻められているわけです。

 発効しなかったら、ではどうなるのか。それは当然、何もなかった状態に戻していただかなければ困ります、という話になっていきます。この辺りが全く不明瞭でよくわからない領域です。

 ですから、TPPの行方がどうなるかわかりませんが、私は冷静に、発効しないときにこれらの責任をどう取るのか、そして原状復帰をどうやって行い、そして次の体制にどうやって臨むのかということこそが、いま日本政府、与野党を問わずして取り組むべきことだと思っています。

 その他、TPPではやはり中小企業へのメリットがなく、むしろ打撃になるという話もしたいと思っていましたし、ISD条項は大変私どもも懸念している分野です。 こういうお話もしたいのですが、時間になりましたので、後でご質問いただければ、詳細をご説明したいと思います。

 最後に、いま何が問われているのかという点についてです。いまほど、各国、色々な地域でこの貿易や投資というのが主要な政治課題になっているという時代はないと思います。アメリカを見ればわかるように、貿易が政治的な課題になると。これはなぜかといえば、この30年の自由貿易の歴史というもので、確かに大企業は多大な利益を得て、租税回避をしながら肥え太っていきました。しかし問題は、それが人々に還元されないということ、とりわけ日本では、賃金は1997年度以降上がっていません。企業は設けますが、人々は豊かになっていない、格差が広がっている、あるいは地域間格差というのも広がっています。投資も、利益を蓄積していくのも、大都市に集中しているんです。これは世界の各地で起こっている現象です。

 このことの矛盾が露呈しているのが、アメリカでの選挙の結果です。たくさんの報道にありましたが、アメリカの地方都市で地域が荒廃して、仕事を失って、ラストベルトといわれているところで、白人の労働者の人が絶望をして、トランプ氏に投票すると。コミュニティーももうぼろぼろです。仕事もない。私はこの光景を見て、もしかしたら日本の近未来を表しているんじゃないかという恐怖すら覚えます。

 ですから、いまどういう貿易が必要かという意味で問われているのは、大企業や投資家だけが利益を得る仕組みではなく、どうやって公平な分配、地域の再生ができるか、こういう貿易のあり方をきちんと議論をしていくと。これは、国際的な市民社会や国連、様々な専門家の間での共通のテーマにすでになっているという意味では、日本も何とかそこにきちんとキャッチアップして貢献をする、市民社会も国会議員の皆さんも含めて、そういう意識で私どももぜひ努力をしていきたいと思っています。

3.萩原伸次郎(横浜国立大学名誉教授/共産党推薦)



 去る11月8日の米国の大統領選挙で、共和党大統領候補のドナルド・トランプ氏が次期大統領に選出されました。TPPから離脱するということが明らかになりました。1月20日に就任式がありますが、そのときに発表するということですので、最も重要な政策課題としているわけです。
また、オバマ政権は、11月8日から翌年新政権までの連邦議会、一般にレームダックセッションといわれますが、そこでのTPPの批准を強く要請していしたが、下院議長のポール・ライアン氏、上院院内総務のマコネル氏の賛成を得られず、オバマ大統領もTPP批准を諦めたということです。従って、昨年の10月5日に大筋合意したTPP協定は発効できないということになります。

 米国は現署名国GDPのほぼ60.3%を占めますので、米国が協定から離脱すると、発効条件の85%以上に達しませんので、この協定は成立しません。歴史的なごみ箱に入れられたという表現もされているわけです。

 従って、この国会でのTPP審議の意義というのは、私は基本的に崩壊していると考えますが、政府・与党はあくまで今国会で成立を、ということですので、一国民の立場からこのTPP協定について意見を述べさせていただきたいと思います。

 経済政策というのは、国民大多数の経済繁栄と安定を目的に策定されると私は考えています。経済利害というのは、当然ながら経済的立場によって異なります。ですから、その政策実施によっていかなる人が利益を獲得し、いかなる人が不利益を被るのか、それを比較考慮して、一部の人々のみが利益を得る、あるいは多くの人が利益を得ないという政策は採用すべきではありません。よく国益という言葉がいわれますが、それは立場の違いによって異なるわけでして、政策を実行していく人たちは、大局的立場から判断することが求められているわけです。

 トランプ次期米国大統領がTPP離脱表明をしたというのは、雇用の喪失、賃金下落という事態を招くTPPは米国の政策として間違っていると、そういう判断を下したからです。代わって、トランプ次期大統領は、米国は公平な二国間貿易協定を進めると明言しました。この貿易政策は我が国に対してどういう影響があるかといことは、今日のテーマではありませんので差し控えます。本日は、現在、政府与党が成立を急いでいるTPP協定が対象になるわけでて、そもそもこのTPPとは何なのかということを、やはりきちんと押さえることが必要だと思います。

 言うまでもなく、このTPP協定というのは30章からなる膨大なものであり、内閣官房のTPP政府対策本部がまとめられたTPP協定の意義というものを読むと、その本質がよく見えてきす。21世紀型の新たなルールを構築するTPPは、物の関税だけでなく、サービス、投資の自由化を進め、さらに知的財産、電子商取引、国有企業の規律、環境など、幅広い21世紀型のルールを構築するものというのが一つ。それから、成長著しいアジア太平洋地域に大きなバリューチェーンを作り出す、域内の人、物、資本、情報の往来が活発化し、この地域を世界で最も豊かな地域にすると、これは根本公述人が述べられたことと重なるわけですが。

 ここから見えてくることは、TPP協定によって海外進出を図る多国籍企業は、国境を越える統合を円滑にして、国内市場を開放する継ぎ目のないバリューチェーン、サプライチェーンと言いますが、そういうものを形成し、生産の効率性を高め、企業利益をグローバルに高めるということになっていきます。

 TPPを推進する方は、自由貿易というのは、生産性を高め、イノベーションを引き起こす、そして輸出増大による高賃金職の創出につながると言うわけですが、こうした貿易効果というのは、すでに過去のものになっています。企業が原材料から完成品まで国内で行って輸出を増加しているという時代の話でして、確かに日本の高度成長時代は、自由貿易は輸出の増進、雇用の増進につながりました。しかし、今日の多国籍企業の時代では、国境を越えて企業は利潤追求のための効率的なバリューチェーン、サプライチェーンを形成しますから、自由貿易の促進というのは必ずしも雇用の増大にはつながりません。

 現在、米国のAFL-CIO(全米労働総同盟)はTPP批准反対を主張していますし、次期大統領のドナルド・トランプ氏がその声に耳を傾け、TPP離脱を行おうとしている背景には、1994年の北米自由貿易協定(NAFTA)によって米国内の雇用が失われ、1990年代の後半、IT革命による景気高揚にもかかわらず労働賃金の上昇にはつながらなかったという苦い経験を踏まえ、TPPはそのアジア太平洋版であると言っていることが重要なポイントです。
TPP協定が多国籍企業本位の国際連携協定であるということを示す事実は事欠くことがありませんが、例えば第3章の原産地規則及び原産地手続を定めた箇所を検討すると、それが非常に明らかになります。

 ここでは、輸入される産品につきまして、関税の撤廃、引下げの関税上の特恵待遇の対象となるTPP域内の原産品として認められるための要件、そして特恵待遇を受けるための証明手続というのが定められていますが、国境を越えるバリューチェーンの観点からこの箇所の規定を見てみると、複数の締約国において、付加価値、加工工程の足し上げによって原産地を説明する、つまり完全累積制度ということでして、これは明確に多国籍企業が国境を越えるバリューチェーンの形成を促進するということになります。

 なぜかというと、一般の原産地規則というのは付加価値方式でありますから、当然、当該国の付加価値のみが輸出の場合にカウントされるわけですが、累積制度を採ると、当該国のみならず、輸入してくる先の生産された部品、中間財の付加価値も原産品としてカウントされるので、バリューチェーンのコストダウンというのを締約国内で自由に形成することができるようになります。

 従って、自由貿易による輸出促進が雇用を増大させるとよくいわれますが、必ずしもそうなる保証はどこにもないということです。多国籍企業にしてみれば、賃金が高ければ、そうした地域を避けて、締約国内のどこでも自由に企業活動ができる、他企業との取引も可能になるというものです。
第9章の投資においても、TPP協定は多国籍企業が締約国内のどこでも自由に企業活動ができるように様々な仕掛けを用意しているということがあります。投資しようとする締約国とそうでない他の国を差別してはいけませんし、一旦企業が設立されればその国の企業と同じように処遇すべきであるという、外資系企業では差別してはならないとか、あるいはローカルコンテンツの要求、技術移転の要求をしてはならないとか、様々なことがそこで定められております。

 つまり、効率的なバリューチェーンを形成するということがこのTPPの目的ということになりますので、いわばそうした様々な現地の企業の要望というものが無視されて、多国籍企業本位のサプライチェーン、バリューチェーンが形成されるということが大変大きな問題です。

 そして、ここでは時間も限られていますので申し上げることを差し控えますが、とくにISDSという問題もあります。

 そして、言うまでもなく、このTPP協定の大変大きな問題は、農産物における関税が、確かに一部では守られておりますが、中長期的には限りなくゼロに近づくということが大変大きな問題になっているわけです。これは、一般的に農業の問題であると考えられています。確かにその通りで、こうした関税撤廃であるとか、無関税枠が拡大していくということは、いわば日本の農業に壊滅的な打撃を与えると同時に、食料自給率が低下する、あるいはそれに伴って地域経済の崩壊というものが引き起こされるという可能性が出てくるわけです。

 TPPを推進する方は、関税撤廃によって輸入製品の価格が低下して消費者が恩恵を被るということを主張されますが、締約国から安い農産品や食品が日本に大量に入ってくるということになれば、日本の賃金は確実に低下の傾向をたどることになります。賃金は基本的に生活費から成り立っているということを忘れてはならないということです。農産物の約8割が無関税で日本に入ってくるということになれば、当然、食料品価格の低下と生活費の低下と賃金削減というような事態になっていき、日本経済のデフレといわれる状況は解消するどころか、より深刻な事態になるということが懸念されるわけです。

 さらなる賃金低下、内需の落ち込み、デフレの進行、これは魔のスパイラルといわれていますが、こうした事態がTPPによって引き起こされる可能性を否定することはできません。日本銀行が必死になって金融緩和政策をして、デフレを物価上昇に持っていこうという政策を採っていますが、実体経済が停滞している以上、それはなかなか難しいということを考えなければなりません。
従って、安倍首相も、賃金を上げる、日本経済を活性化したいとおっしゃっているわけですから、そういう安倍首相の考えを実現するということを考えれば、まさにこのTPPから離脱することこそが、日本の賃金、経済、そして地域の底上げということになる。それをやはりぜひ考えていただきたいということです。

 従って、TPPは確かに多国籍企業や海外進出を図ろうとする一部の中小企業の利益になると思いますが、多くの労働者、農業者、それから中小企業の方々、消費者、地域住民、そういう層との矛盾というのを大変深くするということになります。従って、私は、今国会でこのTPP協定を批准するということに対して反対したいというのが結論です。

4.住江憲勇(医師・全国保険医団体連合会会長/公募)

 私は、全国保険医団体連合会という、地域の第一線の医療機関で働く保険医の医科、歯科合わせて1万5,000名を擁する団体の会長です。そういう立場で意見陳述させていただきます。

 衆議院での強行採決に抗議し、今国会での承認、批准を行わないことを求めます。政府・与党は、アメリカ大統領選挙の結果など情勢の変化にもかかわらず、また、徹底審議を求める多くの国民の声を無視して、TPP協定の承認案及び関連法案の衆議院での採決を強行し、参議院に送付しました。これは、情報開示と国民的な議論を求めた国会決議にも反するものです。私たちは、TPP協定内容の十分な開示と臨時国会での徹底的な審議がなされないまま、今国会で承認、批准されることは断じて許されないものと考えています。

 協定上、今以上の情報開示は困難というならば、そもそもそんな貿易交渉は21世紀のいまのこの世界では認められないと思います。

 そもそも貿易交渉のあり方とは、相手国と相互に事情、実情を真摯にしん酌し合い、対等、平等、互恵関係を構築することにあると思っています。TPPのように、ただただ投資家・多国籍企業が徹底的に保護され、相手国に徹底的に市場開放を求め、投資・多国籍企業に徹底的に有利な紛争解決規定を求める、こんな強者の論理、資本の論理むき出しのTPPでは、いま、全世界で反省の極みにある、前世紀までの列強による世界支配によってテロのような報復の連鎖を生んでいるという反省に対する冒涜であり、何よりも報復の連鎖の再生産そのものであるということを銘記しなければならないと思っています。

 公的医療保険制度を切り崩し、国民の生活と健康を損なうという危険があります。私たちは、政府が明らかにしている内容だけから見ても、TPP協定は我が国の公的医療保険制度を切り崩し、国民の生活と権利を損なうものであると考えています。地域医療に従事する医師、歯科医師の団体として、以下の点から、TPP協定の国会承認を行わないよう強く求めるところです。

 一つ、新薬の高止まりが続き、医療保険財政を圧迫することです。政府は公的医療保険制度のそのものの変更はないとしています。しかし、医薬品については制度的事項で取り扱われ、透明性や手続の公正の名の下に、公的医療保険制度の一部である医薬品の保険適用や公定価格に関する我が国の決定プロセスに多国籍企業が利害関係者として影響力を及ぼすこと、すなわち日本の薬事行政への介入が懸念されます。

 また、特許期間の延長やバイオ医薬品のデータ保護期間の設定、そして特許リンケージといった多国籍企業に有利なルールで、現状でも諸外国と比べて高い日本の薬価が構造的に維持され、また、特許延長はすなわちジェネリック医薬品の開発を限りなく遅延させることになります。

 私ども全国保険医団体連合会は、20年来、日本の薬価、国際的に見て高薬価ということを盛んに警鐘してきました。2010年に再度、国際比較調査しました。そうすると、イギリスを100とすると、日本は222、米国は289というデータが出ました。これを厚労省に提示すると、厚労省は「本当にほんまかいな」ということで、再度、厚労省として調査しました。そうすると、イギリスを100とすると、日本は197、米国は352というデータが出ました。米国については、私どもの調査よりも高く出ました。そういう構造があります。

 こうした仕組みにより、安価で有効な医薬品が手に入りにくくなり、患者、国民の命や健康が危険、危機にさらされるだけでなく、我が国の医療保険財政が圧迫されることになります。

 ここで、皆さんご承知の「オプジーボ」の問題を紹介したいと思います。これは、薬価が100ミリグラム73万円で、60kgの人は1回投与すると130万円、1年間で3,500万円かかるという高薬価です。最初、悪性黒色腫という腫瘍に対する症例で適用され、大体470症例、31億円程度の経済規模とされてそのような薬価が付いたのですが、この薬価を私どもの調査でイギリスを100とすると、アメリカは200、日本は500という事実が判明しました。私ども保団連として厚労省と交渉し、厚労省としては25%引下げで幕引きを狙ったと思いますが、経済財政諮問会議でも私どものデータが取り上げられ、11月16日に中医協総会で、「市場拡大再算定ルール」が適用され、50%引下げが決定されました。

 TPPの下であればどうでしょうか。直ちにISDS条項の発動という事態になったかもしれません。「50%引下げなんてとんでもない」と。従来、日米経済の色々な会合、最近は「対話」や「調和」などややこしい名前の会議ですが、そういうところで盛んにUSTRから市場拡大再算定ルールを撤廃せよという要求が毎年のように来ていたわけです。そういう事実があります。

 次に、ISDS条項の導入で医療の非営利性が脅かされる懸念がございます。そもそもISDS条項とは、投資企業が法的整備のない相手国でどんな損害を被るかわからないということで、一定の保障を担保するという前時代的な条項であり、TPP参加12か国は全て法治国家で、こんな条項を設定する必要は全然ないのです。こんな前時代的な条項を持ち出すこと自体、強者の論理、資本の論理そのものであるといわざるを得ません。ISDSを克服すること自体、いままさに人類の英知が問われているのではないかと思います。

 現在、構造改革特区において、自由診療については株式会社による医療機関経営が認められています。保険診療を取り扱うには保険医療機関の指定を受ける必要がありますが、国家戦略特区において、外国の株式会社が医療機関開設の許可を得た後、当該医療機関の保険医療機関としての指定を求めてISDS条項の発動を求めるおそれがございます。そうなれば、営利企業の医療への参入を招くことになり、命と健康は金儲けの対象にしないという趣旨で現在も堅持されている医療の非営利原則が崩されることになってしまいます。

 そのほか、ネガティブリスト方式で、きっちり営利企業参入禁止という項目が医療の項目の中に書き込まれているかどうか、これも甚だ不明瞭であります。もう一つ重要なことは、SPS(衛生植物検疫措置)で、危険性の評価は徹底的に科学的根拠に基づくとされています。国民の命、健康にとって、「これはまずい」という恐れがあるとき、予防的に事前規制をかけることが不可能になる危険性があります。

 最後に、助け合いの共済制度に民間保険会社と同等の規制がかけられる恐れがあります。当会は、会員が安心して診療に従事し、地域住民の命と健康を守る役割を果たせるよう、助け合いの制度として保険医休業保障制度を運営しております。1970年の発足以来、多くの加入者の生活と医院経営を支えてきました。ところが、TPP協定の金融サービスでは全ての保険サービスが対象となっています。米国保険業界は、長年、共済が事業拡大の妨げになっているとして、各団体が行っている共済制度などにも民間保険会社と同等の規制を課するよう求めており、TPPの今後の協議においてこの圧力が強まることが十分想定されます。そういう危険があります。

 最後に、国民の命、健康、暮らしに関わる医療を市場原理に委ねて、国民一人一人、「自己責任で手当てせよ」では、貧困と格差がつきまとう資本主義社会では、一人一人に行き渡りようがありません。だからこそ、所得再分配として、社会保障制度としての公的医療保険制度があります。医師、医学者としても、今日の最新最善の医学、医療を、あまねく国民一人一人が享受できるようにすることこそ、医の倫理と私どもは考えています。

 これを全うできるのが、公的医療保険制度こそでございます。この公的医療保険制度を瓦解させる、そういう危険大であるTPPには断固反対を表明します。

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