TPP協定文では「医療」という章(分野)はなく、様々な章や付属書を横断的に分析していく必要があります。特に、医薬品の特許権に関する部分に注目すべきでしょう。
薬価決定に製薬企業が影響力を及ぼす!?
「透明性及び腐敗行為の防止」章の附属書は、新たな医薬品や医療機器を保険収載するための手続きについて、「検討を一定期間内に完了すること」や「手続規則、方法、
指針を開示すること」を規定しています。さらに「独立した検討過程」を設けることや、保険収載しないという「決定に直接影響を受ける申請者」が、不服審査を開始することができると規定しています。つまり、今後、アメリカの製薬企業が利害関係者として、「透明性」を盾
に、医薬品・医療機器の保険収載の可否や、公定価格の決定プロセスに一層影響を及ぼすことが懸念されるのです。
特許やデータ保護が強化され、価格が高止まり
「知的財産」章では、医薬品の知的財産保護を強化する制度として、3つの制度を導
入するとしています。
①特許期間の延長制度:特許出願から販売承認までの期間が「不合理」と認定された場合に特許期間の延長を認める。
②新薬のデータ保護期間:バイオ
医薬品(抗がん剤やC 型肝炎の治療薬など)の新薬について、特許期間が切れた場合
でも「データ保護期間」(少なくとも8 年、又は 5 年+他の措置)を設ける。
③特許リ
ンケージ制度:ジェネリック薬承認時に特許権者に特許権を侵害していないか確認する。
このように製薬大企業の独占的利益を保障することは、ジェネリック薬企業にとって大きな障壁となるでしょう。「国境なき医師団」は、「医薬品入手の面で最悪の貿易協定として歴史に残る」と批判しています。日本にとっては、新薬価格の高止まりが続けば、国の財政負担は重くなり、患者負担の引き上げにつながる恐れもあります。
共済、かんぽ生命も狙われている!
「金融サービス」章の定義は広範で、すべての保険、銀行、その他の金融サービスが含まれています。例えば JA 共済や全労済といった共済も、保険業務に含まれるのでこの章の規定が適用されます。在日米国商工会議所(ACCJ)は、「共済は競争上の優遇措置を取り続けている」と、繰り返し批判してきました。米国が主張する「保険」分野に「共済」は含まれており、今後、共済制度に対する意見が寄せられることが十分想定されます。
また日米交換文書では、日本郵政の販売網へのアクセスや、日本郵政グループが運営する「かんぽ生命」が民間保険会社よりも有利になる条件の撤廃などについて「認
識を一致した」と明記されています。
★より詳しく知りたい方は「TPPテキスト分析レポート」へ
http://www.parc-jp.org/teigen/2016/TPPtextanalysis_ver.4.pdf
【関連する協定文】
第 26 章 透明性及び腐敗行為の防止
●附属書 26-A. 第 3 条 締約国は、自国の保健当局が(中略)新たな医薬品若しくは医療機器を一覧に掲
載するため(中略)の手続を運用(中略)する場合には、(a)(中略)検討が一定の期間内に完了すること
を確保すること。(b)(中略)手続規則、方法、原則及び指針を開示すること。
第 18 章 知的財産
●第 18.48 条 2 項(中略)特許期間の不合理な短縮について特許権者に補償するため特許期間の調整を
利用可能なものとする。
●第 18.51 条 1 項(a)(中略)生物製剤を含む新規の医薬品の(中略)販売承認
の日から少なくとも 8 年間、(中略)市場の保護について定めること。
●第 18.53 条 1 項(a)当該最初に提
出した者以外の者が(中略)当該医薬品を販売しようとしていることについて、当該医薬品が販売される前に、
特許権者に通知(中略)する制度。
第 11 章 金融サービス
●第 11.1 条「金融サービス」とは、(中略)全ての保険及び保険関連のサービス並びに全ての銀行サービス
その他の金融サービス(中略)を含み…
●保険等の非関税措置に関する日本国政府とアメリカ合衆国政府と
の間の書簡 2(b)日本国政府は、日本郵便(株)が、(中略)その販売網を民間の保険サービス提供者の
商品の取扱いのために利用可能とすることを妨げない。
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